「ユニコーン企業のひみつ」を読んで

はじめに

オライリーの「ユニコーン企業のひみつ Spotifyで学んだソフトウェアづくりと働き方」という書籍の中では,ユニコーン企業を次のように定義している.

本書で「ユニコーン企業」と言うとき、それは評価額が 10 億ドル規模の企業でありながら、スター トアップみたいに運営されている企業のことだと思ってほしい。

全て一致するわけではないけれど,テック企業の部分は現職*1と似ている部分が多くあるのではと感じたので,ブログエントリーにしてみます.

www.oreilly.co.jp

きっかけ

発売前から興味があって積読していたが,現職のエンジニア採用担当のMさんが社内Slackの個人チャンネルで,「読んだ人いたらコメント欲しい」的なのを見て,ゴールデンウィーク中に読みました.ページ数はそれほど多くないので,4回ほどの長風呂で読み終えました.

これまで

大学卒業してから現在に入るまでの四半世紀超で正社員として3社目,フリーランスでは2社ほど経験しました.今考えると前の前の職場はこの書籍の中のいわゆるエンタープライズ企業でした.大きなハードウェア(マルチファンクションプリンター: MFP)を小ロットで生産し販売する精密機器の製造業です.もちろんMFPに関連するソフトウェア的な要素もありましたが,私はMFPに直接関わることはありませんでした.既存ビジネスの柱とは別の新規事業のための研究・開発を20年ほどやってきました.スタートアップやテック企業と比べるとギャップはあるのでしょうけど,環境の中ではそこそこモダンなソフトウェア開発をやれていた気は勝手にしていました.

3つのポイント

現職に転籍し,本書を読んでみて,改めて以下の3点で従来企業とのギャップ(テック企業と現職との共通点)があるなと考えています.

ミッション

多くの企業で「ミッションステートメント」や「私たちが大切にすること」,「コアバリュー」などを掲げており,私がこれまでに在籍していた企業でも同様でした.前の前のエンタープライズ企業では,素晴らしミッションステートメントはありました.ただ顧客に提供する価値との関連性が薄く,日々の業務でどのように立ち振る舞うべきなのかは個人によってばらついていたと思います.抽象度を上げて広くカバーする表現だったせいか,ぼんやりしてしまうなと感じていました.

現職ではいくつかのプロダクトがありますが,いずれもスモールビジネスの課題に向かっています.それ以上でもそれ以下でもなく,誰をターゲットとして何を提供するのかがはっきりしています.そのため自分が担当するプロダクトが顧客のどのような課題を取り除くために,自分が何をすべきかを自ら考えて作り出すことができる環境です.

特に,本書の「2章 ミッションで目的を与える」は現職とよく似ているなと思いました.プロジェクト型は,柔軟性を欠き,フィードバックも遅くなり,新規プロダクトを開発するのに向いていない.ミッションという形で目的を与えることで,日々の行動目標がはっきりする.またチームがオーナーシップをもち,ミッションの実現方法を自ら探る.この辺りは現職にて日々思うところです.

強いチーム

これまでの企業でも,Webサービスをゼロから設計して開発し,リリースしてから運用までを,ある時は一部(大半)だったり,時には全ての業務を担当してきました.設計から開発・テスト・リリース・運用だったり,ネットワークインフラからWebアプリケーションの中までに携われたので,そこそこ広い範囲での技術に触れられたのは,自身の強みの一つだと思います.ただワンオペのようになってしまう傾向にありました.というのも以前の職場のメンバーの多くは,自分の業務を任せられるレベルのスキルや知識を持っていなかったため,自分がやったほうが早かったり,自分がやるしかありませんでした.

これに対して現職では,スキルの非常に高いメンバーが多く在籍しています.またプロダクトを開発して運営するために必要となる専門のチームが社内にあり,機能するための仕組みが設計されています.このため自分自身が担当する領域に注力できます.そして各チーム間の壁がほとんどなく,チームを超えた連携がメンバー単位で日々行われています.各分野ごとに専門性の高い人材が多数いて,メンバー間でスムーズに情報を交換して業務連携するという,理想的なチーム(組織)の関係性が出来上がっています.本書の中ではそのものズバリ当てはまる章はなかったと思いますが,自発的な行動を促すために権限を現場に移譲していたり,会社がメンバーを信頼する姿勢などは,本の中のテック企業と共通しています.

カルチャー

現職に至るまで,またこの本を読むまで,企業のカルチャーの意味は正直なところ全く分かりませんでした.

カルチャーに関して最も酷かったのは某零SIerフリーランス業務委託契約をしていた時のことでした.突然ワンマン社長から「うちのカルチャーにあわない」と言われて契約を打ち切られることがありました.この会社の正社員の倍以上の単価を,週2リモート・週1出社のフリーランサーには払えないと.ここの社員のスキルはあまりにも低かったので週1出社した時はほぼ全ての時間をトレーニングに費やしました.極々基礎的な用語や概念をご存知ないため,まずそこから説明しましたが,実業務での課題解決には全く至りませんでした.契約終了にあたり急遽精算することになり経理担当の方から「何があったのですか?」と訊かれたのでワンマン社長のありがたいお言葉をそのまま伝えたところ,「うちにカルチャーなんてもの無いですよ」と言われ,「ですよね」と返しました.結局カルチャーにあわないなんて,テイ良く断るための常套句くらいに考えていました.

20年ほど在籍していた某エンタープライズ企業でもカルチャーらしきものは恐らくありませんでした.

現職では,カルチャーをとても大切にしているというのをカジュアル面談や採用面接の段階から聞いていました.正直なところ企業理念を表す「マジ価値2原則」というワードには,最初はチャラい印象でしたし,やや面食らったのも事実でした.しかし入社後のオンボーディングでの説明や,様々な方との1on1や,日々の業務や会話の中で,多くの(ほぼ全員の)メンバーが同じようなことをことを考えていることに驚きました.これがカルチャーが浸透したということなのかなと思うようになりました.カルチャーを言語化し,醸成するために議論をし,時折アップデートすることの意味については,本書の「9章 文化によって強くなる」にも記載されていました.

おわりに

現職では,前述の通りハイスキル・ハイスペックのエンジニア200名超が,同じ目的(ミッションの実現)に向かって,各自が主体性を持って自律的に行動しています.そして,そのためにカルチャーがあり,メンバーが最高のパフォーマンスを出せるように環境を整えるツールの一つとなっています.成長・拡大を続けるテック企業のカラクリだったり,その中で働くことの喜びだったりを,本書を通して改めて知識として整理できました.あとは成果を出すなだけですが,個人的にはまだ十分にアピールできていないのが目下の悩みです.

*1:5ヶ月ほど前に転職しました.詳細はhttps://stoshiya.hatenablog.jp/entry/leave-flect-join-freee